ピンクのれいぞうこ

 リサイクルショップのねずみのドズワースは、ぼうっとしているのがすきでした。
テレビみて、ごはんをたべて、たっぷりひるねをして、これがドズワースの毎日で
した。ある日曜日の朝、いつものガラクタ置き場のまえをとおると、ピンク色のさび
ついた冷蔵庫があり、とびらに地球のかたちをしたマグネットで紙切れがとめられ
ていた。「絵をかこう」とかいてあります。とびらをあけると中にスケッチブックと絵の
具とふでがはいっていました。「絵なんて もうなんねんも かいていないのに」と
思いながら、その日の午後、海の絵をかきました。
次の朝さんぽにでかけると、こんどは「本をよもう」と紙切れにかいてあって、とびらを
あけるとたないっぱいにりっぱな本がはいっていました。持ち帰って、かたっぱしか
ら一日中、よるおそくまで読み続け、そのままねむってしまいました。
火曜日紙切れは「えんそうしよう」にかわっていてトランペットがはいっていました。
ドズワースは「ほんとうにすごい冷蔵庫」だと言って、トランペットをふきました。さい
しょ音はでませんでしたが、日がくれるころにはすこしふけるようになりました。
水曜日には「りょうりをしよう」とかいてあり、料理の本と、材料が。
木曜日には「にわをつくろう」とかいてあり、苗木、たねのはいったふくろ、シャベル、
植木ばさみがはいっていました。家にかえるとドズワースはさっそく庭づくりをはじめ
た。「たのしいなあ!どうしていままでこういうことをしなかったのかなあ」。
金曜日、そわそわしながらガラクタ置き場にいくと、「どんどんやってみよう」とかいてあ
るだけで、冷蔵庫の中はからっぽ。ドズワースはがっかり。「これじゃあただのおんぼ
ろれいぞうこじゃないか」。
しかたなく家にかえり、イスにすわって、テレビをつけ、紙切れにかいてあったことを考
えていました。「< どんどんやってみよう >か・・・・・」。夜になって地球のかたちをした
マグネットをながめているうちに、この世界がふしぎでみちあふれている気がして、むね
がどきどきしてきました。ドズワースはすっとたちあがると、ピンクのれいぞうこのなかか
らもってきたものをぜんぶ自転車にのせました。「ひろい世界を見てきます」とかいて自
転車にのって出発したのです。にっこり笑ってれいぞうこにあいさつすると、夜のまちに
こぎだしていきました。

あいたい 友だち

 メルハバ!ボスポラス海峡。地図を見ながらさがしてみる。西アジア、トルコにある海峡。
海峡を渡ればブルガリア、ギリシャ、内陸には東欧と呼ばれる国々、ルーマニア、ハンガリ
ーへと続いている。昔も今も海峡を交易船が行き来する。
オ・ラ!ヨーロッパの西のはしイベリア半島、スペイン。どこまでもオリーブやブドウ畑が続
いている。畑の収穫に外国からたくさんの人たちがきている。
カリメラ!地中海、エーゲ海、ギリシャの漁村。夕日にそまった海を漁にでていたお父さん
が魚を満さいにして帰ってくる。
中東(アフガニスタン、パキスタン)の国境。ぼくたちは、たき火を囲んで、かじかんだ手を
温める。今日、やっと国境をこえた。やかんから白い湯気があがる。ぐつぐつにえたナベか
ら、おいしそうなにおいがただよってくる。
ドバルダン!バルカン半島の国、アドリア海に面したボスニア・ヘルツェゴビナ。家に帰っ
た。長い距離をバスにゆられて、やっと昔の村にもどって来た。家はこわれていたけど、家
から見える景色は、あんな戦いのあとでも、昔と少しも変わらない。
ドーバルデン!ヨーロッパの東の国、ポーランドだろうかハンガリーだろうか。世界中を一緒
にまわってきた移動遊園地の団員たちはひとつの家族。
ハロー!イギリスの公園。メイフラワーの花がさいた。どんな花なんだろう。
プリヴェット!ロシア。待ちに待った夏休み。家族そろってダーチャで過ごす夏休み。
アッサラームアレイクム!中東の砂漠の国、イラクだろうかサウジアラビアだろうか。昼下が
り、すずしい風がとおる日かげで老人のサムさんが村の古い歴史を語る。塩やナツメヤシを
つんだ何百頭ものラクダのキャラバンが、この石だたみの道をかよったことを。
ナマスカール!ガンジス河口の村々、ベンガル地方。毎年雨季になると家も橋も道路も畑
も水田も水びたしで流される。もう一度やり直さなければならない。それでも稲を植え、小麦
をまき、大地は収穫の黄金色にそまる。
アッサラームアレイクム!中央アジアのオアシスと草原の国カザフスタン。面積は世界で9番
目。
ボンジュール!西アフリカ。ひさしぶりの雨。乾燥してひびわれた大地に雨がふる。明日から
種まきができると父さんが喜んでいる。
サインバイノ!モンゴル。ぼくは小学校2年生。夏の祭りナーダムでぼくは競馬にでる。
アッサラームアレイクム(あなたに平和を)!アフガニスタン。村の大人たちが学校を建てる。
内戦で学校がなくなってから、村には学校がなかった。まだ電気はきていない。
「わたしのことを見てほしい。話を聞いてほしい。そして知ってほしいんだ」
いつかきみにあいに行く。海をこえ、空を飛び、地球の反対側のまちへ。きみがいる土地の
ことを、きみのくらしを、きみの喜びを知るために。

たいせつな あなたへ

 あなたがうまれるまでのこと すこしきいてね おぼえていたら いつかおもいだしてね
とうさんはかあさんのことがだいすきで かあさんもとうさんのことがだいすきだったの
そしたらある日 おなかのなかに あなたをさずかった
すこしふくらんだおなか わたしはあなたがこわれないように そっとあるいた
かあさんはまるくなって あたたかく あなたをつつんでねむったよ
かあさんはどこにいくのも あなたといっしょだったのよ
ちゃんとなかよくなれるかな なにをしたらよろこんでくれるかな
あなたのかあさんになるのがうれしくて これからいっしょにいきていけるのがたのしみで
 “からだの中に、もうひとり誰かがいる不思議。おなかがふくらんでいくのと一緒に、
 心配になったり臆病になったりもした。同時に見たことのないゆたかな景色も広が
 って、まるで新しい風が吹く野原にたっているような、つよい気持ちにもなりました。
 親になる喜びと、生まれてくるいのちの前で覚悟したことを・・・・・訳者あとがき”

くものがっこう

 池や川や海の水が蒸発して雲を発生させ雨が降る。
たかいそらのうえ、くものあかちゃんが もくもくとうまれてくる。
そこには きょうとうせんせいや こうちょうせんせいがいて くものがっこうがある。
いちにんまえのくもになるためには しっかりれんしゅうしなければならない。
くもりぞらのくも はれわたったそらのくも。はじめは しかく さんかく まる。
すきなものになるれんしゅう ソフトクリーム ひこうき かたつむり イルカ クジラ ゾウ
シロクマ ウサギ フラミンゴ。
春のくも、夏のくも、秋のくも、冬のくも。 

少年の木

 鉄条網は、ある日人間が思いつきで設けた差別や偏見の象徴です。本来差別やかた
よった見方はないはずであるのに、何時の日かとつぜんそんな思いが発生する。そして
病気のように伝染する。国や民族や宗教、経済紛争。一方の囲いの中で、もう一方の囲
いを非難したり、中傷したり、暴力をふるう、そして戦争へと発展する。戦争は破壊と殺り
くです。そこでは何も生産されず、人間の心に深いいたみを生じさせるだけです。
人間たちは思慮深くならなければいけません。紀元前何年にどこの国で何があったか、紀
元何年になにがあったか、そして時代背景と歴史の全体を知ることです。歴史を知れば、
袋小路にはいってしまうことはないでしょう。いちばん大切なことはものごとを知ること。そう
すれば、つながりと融和の世界がひらけていきます。そしてだれもが幸せでありたいと願っ
ていることを。